「ランキング依存が止まらない〜出版不況の裏側」への疑問+「週刊ブ

昨日放映されたNHK「クローズ・アップ現代」、録画しておいたのを見た。ひと言でいって内容の乏しい番組だった(内容そのものについては、「空想本屋書肆紅屋」さんが簡潔にまとめてくれてます)

そもそも、この番組が否定的にとらえている「ランキング依存型の書籍購入」がいったいいつから顕著になって、どのくらいの期間にどの程度強くなっていったのか、なにひとつ検証も実証もしてないから、話にならないと思う。本に限らず「売れてるものが売れる」時代だというのは、感覚的には分からないじゃないけど、唯一出てくる根拠というか傍証は、本屋大賞を受賞しても、売り上げが大幅に伸びるのは1位の本だけで、2位以下の本の売れ行きには影響がない、というデータのみですよ?(これは知らなかったのでちょっとショックだった。本屋大賞といえば、あれ、文芸だけじゃなくていろんなジャンルでやってほしいなあ。番組の後半で紹介されてるオリコンによる新しい書籍の売上ランキングにも同じことを希望) 出版界の売上げが減ってることと出版点数を示す棒グラフも、書籍だけの数字なのかどうか説明してないし。せめて例えばベスト・テン入りしている本が売り上げ全体の何%を占めてるのか、その数字の変遷ぐらい知りたい。

「その影響で埋もれてる本がいっぱいある」という「出版ニュース」清田代表の言葉もよくわからんです。20年前30年前なら売れていたこんな「良い本」が、いまはこんなに売れなくなった、っていうデータでもあるんだろうか? そりゃ10年間15年前に比べたらたしかに部数は減ってますけど、今だって、よくもまあこんな堅い/地味な/難しい/高い/分厚い/マニアックな/アカデミックなetc.本が、ちゃんと売れてる=商売として成り立つなあと感心させられることがしばしばな僕としては、その実感を覆してくれないと、素直には肯けない。実用書や理工系の本が視野に入ってないように見受けられたのも気になったかな。

全体に「1をもって100を語らせる」いかにもテレビ的な内容で、ぼくみたいな内部の人間じゃなくても、得るものは少なかったんじゃないだろうか? 国谷キャスターの最後の言葉、「出版業界のビジネスモデルは、もしかして転換期を迎えてるのか」って、いつから言われ続けてるのよ、っていう。それと、デジタル化とインターネットの高速化・普及によって根底から激変に見舞われているCD/音楽業界に比べたら、出版業界ははるかに平和だと思うし、内部改革によって良くなる余地がまだまだあると思う。

いわゆる「出版不況」は、ぼくらのわずかな経験から思うに、大手取次の金融機関化と委託配本システムによる慢性的な自転車操業が構造化したことに主因がある、と僕は考えてますが(メディアの多様化とか不況の慢性化による消費支出の減少といった社会環境、それに老舗出版社ほど「経営者」が不在、といった業界内事情とか、いろんな次元でいろいろいろいろあるけど)、そのなかでたとえばではありますが、僕らの本をどこよりもたくさん、しかも効率よく売ってくれるジュンク堂書店のようなお店がどうやってるのかとか、あるいはアマゾンの実態とかに切り込んで欲しかった。

なお、月曜社のブログでも指摘されてますが、取次に新刊を納品するとすぐに内金としてお金が入ってくるのは、超が付くような一部大手出版社や取次との付き合いが長い老舗出版社だけですので、ねんのため。その点、双風舎の谷川さんも以前ブログで書いてらしたように、実際に売れた分の代金を回収する「直取引」は、見かけ上の売り上げが発生しないという点でも健全だなあ、やっぱり。ぼくらは大手取次と直接取引をしてないので、パターン配本・自動配本という流通のさせ方はしてないんですが、といって直取引もほんのちょっとだけしかやってない。だからまあ、その中間(よりは取次寄り?)あたりを進んでる感じでしょうか?

[追記]
番組に出演されていた仲俣暁生さんの【海難記】「本の買い方のリテラシー」、伊野尾書店WEBの「悪貨は良貨を駆逐する」もこの番組に関連して興味深く拝見しました。


明日の「週刊ブックレビュー」にピーターさん出演!
明日6日(土)朝8時30分〜9時24分に放送されるNHK−BS2「週刊ブックレビュー」にピーター・バラカンさんが出演して、『魂(ソウル)のゆくえ』のことを20分弱にわたって語ります! 聞き手はおなじみ中江有里さんと、ピアニストの三舩優子さん。昨日収録を見学してきたんですが、いやもうほんと、モニターの画面に本が大写しになるたびにドキドキしました。三舩さんはクラシックのピアニストですが、70年代のアメリカ在住時にモータウンはじめソウル・ミュージックに親しんでいらしたそうで、しっかりご紹介いただけて感謝です。翌7日(日)の夜23時45分から再放送もあります。ぜひ見てください。